MP ENCORE 2026の舞台「Our Town」(奈良橋陽子さん演出 邦題「わが町」ソートン・ワイルダー作)を観ました。
極めてシンプルな舞台装置で演じられるこの演目は、演者同士のやりとりや動作で場面が展開されます。
今回の舞台で思わず涙したのは、私が座った席の前方で淡々と熟されるウエブ夫人(Mrs. Webb)役の友人、 國元なつきさんによる、夜明けから朝食を用意するセンソリーワークでした。
センソリーワークでは五感を使って無対象のものに感覚的な経験を呼び起こします。〜しているふり、ではなく、イマジネーションの中で対象物を見て、触れ、聞き、嗅ぎ、味わうことで、演者は実際には目で見えないものを心身で感じながら役を演じます。例えば、舞台小道具にはないお皿を、舞台には存在しない棚から出し、存在しない調理台に置きます。演者はお皿の大きさ、重さ、厚さ、質感、各場所の感触等々を具体的に感じながら演じます。
観客である私がそれに触れることで、実際には見えない様々なものが私のイマジネーションから立ち上がり、多くのディテールが鮮やかに想像上で浮かびます。
朝食を作り始めるために火を灯す竃の取っ手の感触、だんだん暖かくなっていく部屋、割った卵の殻が調理台に落ちる音、器の重み、玄関の扉を開けた時に吹き込む冷気、そういったものが目まぐるしく家事を熟すウエブ夫人から伝わります。
虚構の中にある演者の真実によって虚実の間にある壁が下がった舞台では、観る側のそれぞれの経験に基づく想像力が舞台を少しずつ異なったものにするのかもしれません。
平凡な日々にある永遠の価値を問う本作と、観る側の個人的な日常を結ぶ架け橋のひとつが、彼女のセンソリーワークにありました。
演者の皆さんそれぞれの美しい個性が町の日々を輝かせていた「Our Town」。
いい作品だなあ。
千穐楽、おめでとうございます!
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