2008/12/16

イケ≠イカ

その日の春日通りはせわしなく走る車が少なく、家から丸の内界隈まで、チャリを駆って30分そこそこで到着した。
オイルをさして埃や汚れを取ったチャリは、いつもよりスピードを上げて私を運んだ。

帰り道は西日を背負う形になるから、陽の眩しさに邪魔されず、行きよりも更にスピードが増した。
隅田川の生暖かい風が注ぐ両国橋を越えながら、信号や車に煩わされずに川沿いを走るパスがあることを思い出した。
小道に入ると、そこから2mくらいの高さに遊歩道あり。

アクロバティックなことは無理でも、その遊歩道に上がる階段につけられた、幅25cmほどのスロープならチャリを降りなくてもクリアできる。
自転車から降り、牽きながら上り下りするためだけのスロープだと分かっていても、こう気持ちのいい夕方に、私一人を待っていたスロープを、チャリで駆け上らない訳にはいかない。
ほら、スロープが手招きしてる。
緩やかに弧を描きながら、さぁおいで、と私とチャリに微笑みかけている。

思い切りペダルを踏んで、駆け上がった。
隅田川が引力を与えてくれる。


・・・クラッシュ音。残像。目眩。耳鳴り。川をゆく船の音。目の前にイケメン。

イケメン?
なんだか使い古された言葉、イケメンって。
え、目の前にイケメン?

「大丈夫ですか?手を貸しましょうか?」
「だ、大丈夫です。いつもだったらコケないんですけど。」
(嘘をつけ)
「片方、鼻血が出ていますよ。」
「両方出してご覧にいれましょう」
(どこの阿呆だ、私は。頼む、独りにして)

イケメンじゃなくて、烏賊麺だったらよかったのに。
人の肩を借りて、切れた鼻緒をすげ替えてくれるのを待つ娘さんのように、私が素直だったらよかったのに。
クラッシュを避けられるテクがあって、あの後、スイスイ隅田川沿いを走っていられればよかったのに。


首と腰の治療費@カイロプラクティックなど=¥8,250也