2012/03/13

春に啼く



春を呼ぶ この季節の旬、
たらの芽、うど。
酢味噌や梅、醤油で和えてよし、塩を振った天婦羅でいただいてよし、何しろ日本酒によく合う。
今朝、夕飯の準備に登場した うど。
くるんと巻いた芽の先を愛でながら、こどもの産毛のような、細くてぎっしりとやさしく生えたそれに沿って流水で洗うと、その毛の下に隠れていた生命が 一瞬、ぶるっと震えて わたしの手元から離れようとした。
その端には獲物を捉えたら逃しようのない、見事に尖った爪が揃い、反対側の端にはフサフサとした瑠璃色の羽が、海を渡るに相応しい鳥類の筋肉を匿っていた。
それは高い声を三度上げると、そこが自分の居場所でないことをわたしに諭すように眼差しを向けて飛び立ち、拳ふたつ分ほど開いていた窓をすり抜けて荒川の方へ消えて行った。
ただ一本、そこに残された左足を わたしはもう一度洗った後、桂剥きにした皮をきんぴらにし、薄い短冊に切ったものに酢味噌を添えた。