映画『ウェインズ・ワールド』のウェインたちとボヘミアン・ラプソディを熱唱していたのだから、サウンドのメモリがひとつの着信に気付く訳がない。
「非通知設定」
名乗るほどの者ではござらん、とその場を去った人の後を私は追うことにした。
精巧なセキュリティが張り巡らされたような電波の中からひとつを探り当て、その波を傷付けないように潜り込むことができれば、あとは簡単。文字や数字の羅列が発する轟音をシャットアウトして、そっと波の中を辿っていけばいい。はじめは窮屈に感じても、しばらくすれば自分の身長より大きなパイプのようになる。
ほら、あそこ。
下から発光している場所で降りればいい。
喧しいノイズは消えて、葉を踏むような音がする。
空を見上げている人が、旋回してこちらを向いた。
電話、ありがとう。
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